作家。食育研究家。九州大学大学院農学研究院助教/1973年、大分県生まれ。農学博士。/年間の講演回数は100回を超え、大人向け学びの場である「大人塾」「ママ塾」「mamalink塾」等も主宰/主な著書に『いのちをいただく』『すごい弁当力!』『食卓の力』など、いずれもベストセラー/新聞掲載、テレビ・ラジオ出演も多数


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屋上田んぼの話5

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その⑦-2000/7/31~、恐るべし雑草の力-

 7月20日(木)。宇根さんの田んぼの草引きをすることになった。
 アゾラをもらいに行ったとき、除草機を押す経験はした。結構楽しかった。足が泥に埋まる感覚。そして、除草機を押す、土が濁る。そしてコナギ、ウリカワが浮いてくる。水尻にそうした草がたまっていく。自分のやった作業の成果が目で分かる。これは苦痛な作業ではないかも。まぁ、少しの面積だからだけどね。


 だから、今度の草引きも安請け合いをしてしまった。
 昼過ぎ、宇根さんの田んぼに到着。そして、田んぼを見てびっくりする。この前、除草機を押したのに…コナギ畑になっている!! 除草剤を使わない田んぼ、普通の田んぼはこんなに雑草が生えるのだ。
 まだ、宇根さんが田んぼに来ていなかったので、近くにあった除草機を押してみる。この前のようにコナギは浮かんでこない。ここまで繁り、根を張ってしまうと、除草機じゃあ無理なんだ。ではどうやって除草を?
 宇根さんが軽トラでやってきた。開口一番、「暑いねぇ~」、そう、7月20日といえば真夏だ。太陽が真上から照りつける。日陰がない。「普通の百姓はこんな時に仕事をしないんだよ」。宇根さんもちょっと嫌そうだ。
 僕、宇根さん、辻くん、横手くんの4人で田んぼにはいる。水が熱湯のようだ。熱すぎてジッとしていられない。
 宇根さんの草ひき講座が始まる。一人二畝づつ、4人一列に並ぶ。土に指をつっこみ、稲の周りのコナギを根こそぎ、引き抜く。泥も一緒にとれちゃうので、水にチャポチャポとつけ泥を落とす。とれた雑草を丸めて土の中に押し込む。肥料になるのだという。雑草が土の中で、また根付いてしまうことはないらしい。
 ずっと腰をかがめたままなので4・5回もその作業をすれば腰が痛くなる。腰を伸ばすと、いつの間にか赤トンボ(ウスバキトンボ)が集まってきたことに気がつく。宇根さん得意のクイズコーナーも始まる。「さぁ、あの赤トンボは何匹くらいいるでしょう?」さも数えたようにまじめな顔で「あれくらいなら48匹だな」と答える。
 「なぜ赤トンボは集まってきたでしょう?①人間が好きだから…②人間の汗が好きだから…③草ひきで小さな虫が田んぼから飛び立つから…」宇根ワールドにぐいぐい引き込まれ、赤トンボをじっと観察。赤トンボは零戦のように急降下し、何かを捕らえているのが分かる。宇根さんも頷いている。「こんなによくわかったのは初めてだ。赤トンボは小さな虫を食べている。田んぼの生態系を支えるのはやはりユスリカだ」。
 宇根さんとの農作業は刺激的だ。稲とヒエの見分け方、その虫がガムシであること、コナギが成長するとウリカワは負けてしまうこと、そしてウンカ。この時初めて僕たちはウンカを見た。これで、屋上田んぼにウンカがやってきてもウンカであることが分かる。知的好奇心が刺激され、そして次々と満たされていく。
 往路終了。ほんの10mちょっと作業を進める間に多くの発見をし、多くの汗をかいた。ほんの10mちょっと作業を進めるのに一時間弱もかかった。クタクタ、フラフラになって畦にあがる。足を洗いに隣を流れる小川に直行。せせらぎに足をつけると、冷たさが足の先から頭に駆け上がってくる。からだが冷やされる。川はいいなぁ。そして田んぼの隣にある木の木陰で小休止。風が体を吹き抜けていく。木陰はいいなぁ。
 農業・農村の多面的機能。この田んぼにも、小川にも、木陰にも多面的機能は存在する。水を涵養し、土砂崩れを防ぎ、気温を調節し、生き物を育み、景観を形成し…。でもそれを本当に実感し、大切に思うことができるのは、農作業を体感したときだ。よくわかっちゃったね。多面的機能は机の上で語っても、魂が入っていないこと。宇根さんが多面的機能という言葉をお役所言葉だといって嫌う理由。
 宇根さんが隣の畑からキュウリやトマトをちぎってくれ(当然、宇根さんの畑です)、マヨネーズをつけてかじる。中から体が冷える。夏野菜は体を冷やすということをしみじみ感じてしまう。力が湧いてくるね。農業は食べることで完結。農業の恵みってこうじゃなきゃ解らない。炎天下があって、せせらぎの冷たさが解る。疲労があって食べ物の力が解る。五感すべてで、体の外から中から農が分かる。

 30分間の休憩後、作業再開。作業にも慣れ、今度は約40分で復路終了。そして休憩。そして最後の作業、もう一往路。この頃になると握力がなくなっている。田んぼの中で踏ん張るために、普段使わない筋肉を使い、足も少しこわばっている。そして、作業終了。
 宇根さんが繰り返す。「くれぐれも言っておくけど、お百姓はこんな炎天下の中、草引きなんかしないからね。これは修行と思うべきだ。君たちが来なかったら、僕もやっていない。」続ける。「でもね、こうやって草ひきをしてやると、稲が元気になるのが目に見えて分かる。田回りが楽しくなる。」
 しかし、予想以上の肉体労働だった。若い男性4人が、午後から必死に頑張って一畝ちょっと。その田んぼはアゾラで抑草していたにもかかわらずだ。雑草の恐ろしさ、合鴨やジャンボタニシのありがたみを感じる。除草剤が急速に普及し、それがどんなに恐ろしいものだったとしてもお百姓が手放せない理由が分かる。
 僕はよくジャンボタニシが田んぼにいるのに除草剤を使うお百姓に「どうして除草剤を使うのですか」と尋ねる。「だって、もし生えたらどうするね?」と答えられる。「除草剤を使うには水を張らないといけないし、水を張ればジャンボタニシの活動が盛んになるから…」なんて理屈をいっても、もうだめだ。雑草はお百姓にとってとても恐ろしいものなのだ。そんな固定観念をうち破っていった環境稲作のメンバー、合鴨の古野さん、そして今でも除草機を押しつづける篤農家には頭が下がる。
 宇根さんが最後に言った。「本当に修行だった。草ひきは百姓仕事の中でも一、二の重労働だ。今日が君たちの一大転機になるかもしれん。」 

 

 

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