食育研究家。九州大学講師/糸島市行政区長/1973年、大分県生まれ。農学博士。/年間の講演回数は100回を超え、大人向け学びの場である「大人塾」「ママ塾」「mamalink塾」等も主宰/主な著書に『いのちをいただく』『すごい弁当力!』『食卓の力』など、いずれもベストセラー/新聞掲載、テレビ・ラジオ出演も多数


official web: http://goshisato1973.com/


佐藤剛史の著作一覧


佐藤剛史への講演依頼

講演依頼フォームはコチラ


佐藤剛史の講演のサンプル動画


佐藤剛史への連絡は→goshisato1973@gmail.com

友だち追加

屋上田んぼの話8

www.goshisato1973.info

 

その⑫-2000/8/22~、ついに出穂-

 僕らは米づくりの何も知らなかった。米を作ることに自信はなかった。だから、屋上田んぼで僕らはいろんなことに迷った。恥ずかしい勘違いもした。そして、それを決定的に痛感したのは、8月22日からの数日間だ。
 8月22日(火)、田回り。いつもの田回り。なにげない田回りのはずだった。
 稲を眺める。数日前から茎が太くなっていたことはなんとなく感じていた。その日、それを特に実感し、稲をじっと眺める。すると茎の割れ目? の隙間から穂の先端が少し覗いてることに気がつく…稲穂!?
 慌ててもう一度、穂を探すための田回り。すると、一株だけ緑色の稲穂が葉に隠れて出穂していることに気がつく。毎年、ふつうの田んぼで見ている本当の稲穂だ。



 感動!!
 ずーっと心配だった。水のやり方、落とし方。土の量。土に含まれる栄養分。自信があることは何もなかった。でも出穂した。うれしさがこみ上げる。
 さらに嬉しくなったこと。一番最初に出穂したのは、僕たちが自ら播種し、カラスの攻撃を免れ、約二畳ほどの屋上田んぼに唯一植えられたバケツ稲の苗。生粋の屋上田んぼブランド、お百姓からもらってきた苗ではない苗だ。
 一番早く出穂したのは、播種した時期が違うから。そんなことは少し考えたら分かる。でも、そんな冷静さを越えたこのうれしさは、僕らが注ぎ込んできた屋上田んぼの稲に対する思いの現れだ。
 僕らは何もしていない。自然に稲が育ったというのが実感だ。でも、そんなことお構いなしに嬉しい。お百姓に近づけた気がするからだ。屋上田んぼで無事稲が育つかどうか、その不安が少し解消された。

 数日もすると、すべての稲から穂がのぞくようになった。朝の光を受けながら、風に揺れ、快い音を奏でる稲穂。想像もしてなかったほどの見事なでき。屋上田んぼは大成功だ。
 しかし、横手くんが僕に不安げにいう。「佐藤さん、これ実が入ってませんよ。太陽の光が透けて見えよる。」「…はっ?」僕も稲穂に顔を近づける。確かにスカスカで、太陽に透かせば、何も入っていないことが解る。
 歓喜の絶頂から、絶望のどん底に突き落とされた気分だ。
 なぜ、実が入らなかったか、その理由…言い訳を考える。横手くんがいう。「やっぱり、土の分量と栄養分が足りなかったんですかねぇ」僕も一番にそれは考えた。でも、僕は、水稲は無施肥でも十分に育つことを知っていた。灌漑水中から栄養分が供給されるからだ。マグネシウムは100%、カルシウムも100%、ケイ酸は30%、カリは17%、リン酸は1%、窒素は8%。これは、稲が育つのに必要な養分が灌漑水から供給される割合だ(長谷部、1997、p.5)。
 そうか!!やっと解った。僕たちが屋上田んぼに使っている水は水道水だ。上流に、山林があるわけでもなければ、田んぼがあるわけでもない。豊かなミネラル分なんて含まれていない。だから、普通の田んぼみたいに無施肥で育つわけがないんだ。「速効性の化学肥料を穂肥としてやらないかんかなぁ」なんてことも頭をよぎる。有機を貫くのか、収量で屋上田んぼの成功をとるか。
 これが屋上田んぼだよな。田んぼの学校だよな。バケツ稲だよな。失敗の原因を自分の頭で考える。これが重要なんだよ。なーんてことも考えていた。あまいよねぇ。

 そして、僕たちはつくづく自分たちの無知さかげん、アホさかげんをしってしまう。
 数日すると稲穂の様子が少し変わってきた。太陽が透けなくなってきている。籾を一粒ちぎり爪で割ってみる。白いミルク状のものがでてくる。「!?」。舐めてみる。「甘い」。
 やっとわかった。稲穂には、最初から米なんか入っていないのだ。籾の中に、白いミルク状のものがたまり、それが熟して米になっていくのだ。
 よく考えたら、あたり前のことなのだが、「屋上」、「初米作り」という不安が深読みさせてしまった。考えれば分かる。しかし、その不安を一蹴するだけのあたり前さが、僕たちには備わっていなかったのだ。僕たちのレベルはそんなもんだ。
 屋上田んぼで、まだまだ僕たちはあたり前のことを学ばさせられる。

 そして、思い出す田中さんの言葉。「スズメはね、出穂時のミルク状の米が好きなんだ。早期作なんかで、周りの田んぼに穂がついていないときに自分の田んぼだけ穂があるとスズメにやられるよ。」
 当然、この屋上には、この屋上田んぼしかない。周囲は福岡市東区の住宅地。ヤバイ。この稲穂は、格好のスズメの餌になってしまう。カラスの次はスズメだ。以前、カラスの水遊びよけに張ったテグスなんかは、もうとっくに稲の背丈が追い抜いて意味がない。新たにスズメよけをつくらなければ。
 屋上田んぼの四隅に木材を釘で打ち付けて立て、それにテグスを張っていく。カラスに比べて、スズメは小さいので間隔を細かく張った。横手くんが笑う。「スズメにすれば、ミッション・インポッシブルですね」

 

www.goshisato1973.info

 

youtube、チャンネル登録、お願いします

 

不定期8:00に配信、ゴーシ先生のLINE公式↓
友だち追加

この記事に、いいね!
と思った方は是非、読者登録を↓(blogを更新するとお知らせが届きます)