実際に、同じフロアーで
昼夜を問わず
「おーい!おーい!」
たぶん、隣の部屋の人とかは
相当に迷惑しているはず。
だけど、その裏に
こんなストーリーがあれば
ステキだな、と。
ショートにしたことで
この爺さんのことを
勝手に愛しく感じるようになってしまった(笑)
『最期のよびかけ』
「おーい!おーい!」
「ちっ、またあの声だ。寝れやせん。俺らを睡眠不足にして殺そうとしてるのかね…」
となりの入院患者がつぶやく。
そうなのだ。
同じフロアーのある一室から、「おーい!おーい!」という大きな呼び声が聞こえてくる。毎日、昼夜を問わずだ。
入院した当初は、外の工事現場のかけ声が、室内にまで漏れ聞こえているのかと思ってた。しかし、夜中もその声は続くので、ある病室の入院患者が叫んでいるのだとわかった。
夜中、静まり返った病院で響き渡る、か弱くも力強い「おーい!おーい!」の声は、なんとも不気味だし、一度、気になったら眠れなくなる。
となりの入院患者は看護師に、「あの声、何?誰?うるさいんだけど」とクレームをつける。看護師は、少し困った顔で「プライバシーがありますので…そもそも、みなさん病気で入院されていて、いろんな症状の方がいらっしゃるので…」と答えるしかない。
その病の老人は、もうほとんど目も見えず、耳も聞こえにくい。自分がどこにいるかさえもうわからない。当然、一人でトイレに行くことも、お風呂に入ることもできない。今が昼か、夜か、自分が起きているか、寝ているかもはっきりせず、夢の中を漂っている感じ。死が近いことは悟っていたが、今はそれさえもよく分からなくなった。
あるとき、頭の中で声のようなものが響いた。思念が流れ込んできたというほうが近いかもしれない。
あなたは十分に生きました。人のために生きた人生でした。その人生も、もう少しで終わりです。
そしてあなたのような存在が、今、ここにはたくさんあります。
見えますか?あの光が。
目を凝らすと、光の玉のようなものがユラユラと揺れているのが見える。見えるというか感じる。
多くの光は、一定の大きさ、明るさだが、中には、線香花火の最後のような光もあれば、ろうそくの蝋がなくなるように弱くなっていく光もある。光が消えるというよりも、黒い何かに覆われていくような光もある。
その瞬間、遠くのほうで、壁を何枚も隔てた向こうから「ハリーコール…ハリーコール…7階…」という音が聞こえた気がする。
老人は直感的に思う。
ダメだ。消えちゃダメだ!おーい!消しちゃダメだ!おーい!
風で消えかかった火を、両手で包むことで、再び、火勢が戻るように、その光もか弱いながらも安定した。
あの光は、もう少し光り続けるみたいです。
あなたの呼びかけのおかげかも知れません。
でも、あなたは消耗します。
そうやって呼ぶことで、叫び続けることで、あなたの光はどんどんと、か弱くなっていくでしょう。
あなたの大切な家族と会えないまま、あなたの光が消えてしまうこともありますよ。
そして、周りの人からは「うるさい」と思われることもありますよ。
かまうものか。
人のために生きた人生だ。
どうせ死ぬのなら最後までそれでいい。
人から何と思われようが
目の前の消えゆく光はほおっておけない。
自分の光が弱くなったとしても。
病の老人はその日から昼夜を問わず、消えつつある光を感じると大きな声で呼びかける。
「おーい!おーい!」
「ちっ、またあの声だ。寝れやせん。俺らを睡眠不足にして殺そうとしてるのかね…」
(おわり)
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