食育研究家。九州大学講師/糸島市行政区長/1973年、大分県生まれ。農学博士。/年間の講演回数は100回を超え、大人向け学びの場である「大人塾」「ママ塾」「mamalink塾」等も主宰/主な著書に『いのちをいただく』『すごい弁当力!』『食卓の力』など、いずれもベストセラー/新聞掲載、テレビ・ラジオ出演も多数


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創作活動⑬-入院ショート8本目-

実際に、同じフロアーで
昼夜を問わず
「おーい!おーい!」

 

たぶん、隣の部屋の人とかは
相当に迷惑しているはず。

だけど、その裏に
こんなストーリーがあれば
ステキだな、と。

 

ショートにしたことで
この爺さんのことを
勝手に愛しく感じるようになってしまった(笑)

 

 

『最期のよびかけ』

 

「おーい!おーい!」
「ちっ、またあの声だ。寝れやせん。俺らを睡眠不足にして殺そうとしてるのかね…」
となりの入院患者がつぶやく。

そうなのだ。

同じフロアーのある一室から、「おーい!おーい!」という大きな呼び声が聞こえてくる。毎日、昼夜を問わずだ。

入院した当初は、外の工事現場のかけ声が、室内にまで漏れ聞こえているのかと思ってた。しかし、夜中もその声は続くので、ある病室の入院患者が叫んでいるのだとわかった。

夜中、静まり返った病院で響き渡る、か弱くも力強い「おーい!おーい!」の声は、なんとも不気味だし、一度、気になったら眠れなくなる。

となりの入院患者は看護師に、「あの声、何?誰?うるさいんだけど」とクレームをつける。看護師は、少し困った顔で「プライバシーがありますので…そもそも、みなさん病気で入院されていて、いろんな症状の方がいらっしゃるので…」と答えるしかない。

 

その病の老人は、もうほとんど目も見えず、耳も聞こえにくい。自分がどこにいるかさえもうわからない。当然、一人でトイレに行くことも、お風呂に入ることもできない。今が昼か、夜か、自分が起きているか、寝ているかもはっきりせず、夢の中を漂っている感じ。死が近いことは悟っていたが、今はそれさえもよく分からなくなった。

 

あるとき、頭の中で声のようなものが響いた。思念が流れ込んできたというほうが近いかもしれない。

 

あなたは十分に生きました。人のために生きた人生でした。その人生も、もう少しで終わりです。
そしてあなたのような存在が、今、ここにはたくさんあります。

見えますか?あの光が。

目を凝らすと、光の玉のようなものがユラユラと揺れているのが見える。見えるというか感じる。

多くの光は、一定の大きさ、明るさだが、中には、線香花火の最後のような光もあれば、ろうそくの蝋がなくなるように弱くなっていく光もある。光が消えるというよりも、黒い何かに覆われていくような光もある。

 

その瞬間、遠くのほうで、壁を何枚も隔てた向こうから「ハリーコール…ハリーコール…7階…」という音が聞こえた気がする。

老人は直感的に思う。

ダメだ。消えちゃダメだ!おーい!消しちゃダメだ!おーい!

風で消えかかった火を、両手で包むことで、再び、火勢が戻るように、その光もか弱いながらも安定した。

 

あの光は、もう少し光り続けるみたいです。
あなたの呼びかけのおかげかも知れません。


でも、あなたは消耗します。
そうやって呼ぶことで、叫び続けることで、あなたの光はどんどんと、か弱くなっていくでしょう。
あなたの大切な家族と会えないまま、あなたの光が消えてしまうこともありますよ。
そして、周りの人からは「うるさい」と思われることもありますよ。

 

かまうものか。
人のために生きた人生だ。
どうせ死ぬのなら最後までそれでいい。
人から何と思われようが
目の前の消えゆく光はほおっておけない。
自分の光が弱くなったとしても。

病の老人はその日から昼夜を問わず、消えつつある光を感じると大きな声で呼びかける。
「おーい!おーい!」
「ちっ、またあの声だ。寝れやせん。俺らを睡眠不足にして殺そうとしてるのかね…」

(おわり)

 

 

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