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ばぁばの巻き寿司

大学の授業の課題の一環で
『記憶に残る食の思い出』
というレポートを課すときがあります。

 

そのレポートの一つが
小説『自炊男子』を産み
感涙ムービー
『お母さんのハンバーグ』を産みました。


感涙ムービー「お母さんのハンバーグ」

 

先日、大学院ユーザー感性学の授業で
30分で「『記憶に残る食の思い出』を書く」
という課題を課しました。

 

そうしたら
ある男子大学院生が
おばあちゃんに作ってもらった料理の話を
披露し、不覚にも
目頭が熱くなってしまいました。

その原ストーリーを基軸にし
私の経験、想いを加筆・修正し
一つの作品を創ってみました。

 

『お母さんのハンバーグ』
『はなちゃんのみそ汁』
に続く第三弾
『ばぁばの巻き寿司』。

どうぞ~


『ばぁばの巻き寿司』

僕はばぁばが大好きだ。

 

ばぁばとの思い出がいつ始まったかは
定かではないが
気がついたらばぁばはいた。

 

写真を見れば
生まれたばかりの僕を
ばぁばが抱っこしてくれてる。
すっごくニコニコして抱っこしてくれてる。
僕をのぞき込むように抱っこしてくれてる。

 

でも、僕にばぁばの記憶があるのは
幼稚園くらいからだ。

 

ばぁばは、幼稚園の運動会の前日に
ばぁばの家から
高速バスとJRを乗り継いで
やってきてくれる。

 

そして、運動会の朝
早起きして、巻き寿司を作ってくれる。

 

今となれば分かるのだけれど
巻き寿司を作るには
「かんぴょう」を準備したり
「さくらでんぶ」を準備したり
いろいろな準備をしなければならない。

 

ばぁばはこだわりの人で
っていうか、昔の人は
皆、そうだったらしいんだけど
「さくらでんぶ」も
鯛と食紅で手作りしていた。

 

つまり
ばぁばは
僕の運動会のために
何日も前から
準備してくれてたわけだ。

 

今も覚えてる。

 

運動会の朝、起きると
ばぁばはもう起きてる。

僕はばぁばに突進する。
「おはよ~」
といって受け止めて
抱きしめてくれる。

 

ばぁばの匂い。
酢飯の匂い。

 

今でも鼻の奥にツンと残ってる。

 

服を着替え
手を洗い支度をし
「さぁ、巻き寿司作ろう」
とばぁばが笑う。

 

「やった~」
と言って、
ばぁばの膝に飛び乗る。

 

巻きすを広げ
海苔を敷き
酢飯を広げる。

具材を並べ
後ろからばぁばに抱きかかえられるように
巻き寿司を巻く。

 

「うまくできたね~」
って褒めてくれてて
「もっと作る~」
という僕を
「もう一本作ろうね~」
って褒めてくれる。

 

「食べたい!」
って言う僕を
「ママに内緒やけんね」
って言って
巻き寿司を切って
『端っこ』を食べさせてくれて
「おいし~やろ~」
「おいし~」
って二人で小さな声で笑って。

 

運動会の
午前中の徒競走は
スタートダッシュに失敗して
うまくいかず、
3位には入れなくて。

 

でも、ばぁばは
「感動した~」
「足早いね~」
って褒めてくれた。

 

昼休みに巻き寿司を食べた。

 

ばぁばは
巻き寿司を食べる僕を見て、
ずっとニコニコしてた。

 

「ちゃんと食べてればいい」って。
「それだけで嬉しい」って。

ってそうしたら
午後のリレーは
僕が一人追い抜けて一位になれた。

 

ばぁばは、
「スゴイ、スゴイ!
 パパは足が遅いのにね~」
って喜んでくれて
たぶん、パパ、ママよりも喜んでた。

 

そうやって
幼稚園3年間、
小学校6年間、
毎年ばぁばは
2時間半かけて
家に来てくれて、前日から
巻き寿司を作ってくれた。

 

いつも元気で
大きなばぁば。

 

もう、小学生にもなると
ばぁばの膝に乗ることはないけれど
会ったときは
無条件にばぁばが抱きしめてくれて
ばぁばの匂いを感じて
それがすごく嬉しかった。

 

僕は3歳から12歳まで
9年間、運動会の日に
ばぁばの巻き寿司を食べたことになる。

 

でも。

 

中学生になると
ばぁばに甘えるのが恥ずかしくなった。

 

ばぁばに話しかけられても
「うん」
「ああ」
という感じ。
甘えたい気持ちはあるのだけれど
なんかそんな自分がイヤだった。

 

「運動会の日には巻き寿司作ろうね?」
と声をかけられても
「もういいよ。普通の弁当でいい」
って突っぱねた。

 

それでも
そんな僕を
いつもニコニコ笑って
ずっと見守ってくれていた
いつも元気で
大きなばぁば。

 

中学校3年間も
毎年ばぁばは
2時間半かけて
運動会に来てくれた。

 

でも、僕が
「普通の弁当でいい」
と言ったから
弁当は巻き寿司じゃなくなった。

 

そして僕は高校生になった。

 

高校生になってすぐの
4月のある日。

 

母が唐突に
僕にこう言った。

「さっき電話があってね…。
 ばぁちゃん、ガンなんだって。
 かなり進行していて
 年も年だし
 もう治療もしないんだって。
 たぶん、あと数ヶ月しか
 生きられないって」

 

僕は混乱した。

 

大好きなばぁば。
優しいばぁば。
あと数ヶ月しか生きられない?

ウソだ。
ウソだ。

ばぁばに会いたい。
ばぁばに会いたい。

今すぐにでも
会いたい。

 

でも、高校の授業や課外や
父さんの仕事の都合もあって
実際に会いに行けたのは
ゴールデンウィークだった。

 

ばぁばの家に着き
玄関の扉を開け
ばぁばが出迎えてくれた。

 

僕はビックリした。
目を疑った。

あの大きくて
元気なばぁばの姿はそこにはなかった。

 

病気のせいで
やせ細って
歩くのもやっとなばぁば。

でも
「よく、来てくれたねぇ~」
って、いつものように
優しく笑ってくれた。
久しぶりに、抱きしめられた。

 

鼻に感じる
ばぁばの香り。

そして酢飯の匂い。

「久しぶりやね~
 元気にしとった~?
 お腹、すいたやろう~?
 巻き寿司しか作れんかったけど
 一緒にご飯食べよう」

 

居間のテーブルの上には
ばぁばの巻き寿司が並べられていた。

ばぁばは
僕のために巻き寿司を準備してくれていた。

 

「美味しいね?」
ってばぁばに笑って聞かれ
母に「泣いたらいけない」って言われてたけど
「とっても美味しい!」
って泣きながら、笑いながら食べた。

 

ばぁばは
そんな僕を見て
ずっとニコニコしてた。

 

その2ヶ月後
ばぁばは亡くなった。

 

それからすっと
巻き寿司を食べる度に
ばぁばのことを思い出す。

ばぁばの巻き寿司の味を思い出す。

ばぁばの巻き寿司を超える
巻き寿司に出会っていない。

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感涙ムービー「ばぁばの巻き寿司」