朝日新聞 全国版、2017/11/19朝刊

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3月9日、広島県福山市

友道健氏(けんじ)さん(58)は、
校長を務める市立大成館(たいせいかん)中学校の体育館で
ステージから語りかけた。

「どんなことがあっても、
 最後まであきらめんことや」。
生徒に贈る言葉でも、
自らの決意でもあった。

そして誓った。「絶対に、ここに帰ってくる」

 

1月に血液のがん「多発性骨髄腫」がわかり、
入院した。
この日は、翌日に卒業を迎える生徒たちに会いたいと、
一時退院して学校を訪れた。

 

そのころ、
九州大大学院助教佐藤剛史(ごうし)さん(43)は、
友道さんから病状を聞いて驚いた。
以前から交流があり、
大成館中で講演したこともあった。

闘病には目標が必要だ――。
佐藤さんは考えた。

校長歴8年の友道さんには、
経験談や考え方をまとめた冊子があった。
「すべての子どもは必ず輝く」。
そこには教育に対する信念が詰まっていた。

 

これを一冊の本にまとめよう、
と佐藤さんは持ちかけた。
「ワクワク、ドキドキしてガン細胞をやっつけましょう」。
4月、メールを送った。

 

休職し、春に校長を外れた友道さんは、
岡山の病院でパソコンを開いた。
うれしかったが、
「自分の本なんて、夢のまた夢」と思った。

 

治療は過酷だった。
強い抗がん剤
吐き気に、だるさ。
副作用に、心が折れそうだった。

 

「未来には希望しかありません」。
佐藤さんはメールで励ましながら、
出版社に企画を持ち込んだ。

 

ただ、反応はきびしかった。

 

7月。
「初版2千冊。半分を買い取るなら」と、
ようやく福岡の会社が応じてくれた。

 

佐藤さんはSNSでつながる人たちに、
本の予約を呼びかけた。
「先生にエールを」
メッセージの輪は、少しずつ広がった。
「完治しますように」
「ひとりの母としてぜひ読ませて」
「佐藤さんの薦めなら」……。

 

8月、友道さんは血液をつくる細胞の移植に臨んだ。
無菌室で孤独に耐えていたころ、
本の予約は1200冊に達した。

移植は成功。

9月に退院して自宅に戻った。
しばらくすると、完成した本が届いた。

10月7日、大成館中の体育館。

 

文化祭の会場に、友道さんの姿があった。
「あっ、先生!」
生徒たちから驚きの声があがった。
そして、笑顔が広がった。
(金子元希)

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